2008年12月30日

臨床アドバイザー:三島徳雄先生:ヘルスコーチ・ジャパンに期待すること

三島徳雄先生 心療内科から産業医大に移ったときに強い違和感をもったことがあります。心療内科の治療では最終的には"患者自身が自分の病気の主治医になる"ことを目標にしていました。分かりやすく言うと"セルフコントロール"を非常に重視していたということです。従って、一方的に治療法を押しつけることはせずに、患者様と話し合いながら、共同作業をしながら治療をしていました。職場の健康管理やメンタルヘルスの対象は、まだ病気になっていない労働者が大部分ですから、この発想がもっと徹底されているものと期待していました。しかし、そうではありませんでした。専門家がやり方を一方的に与える(押しつける)指導方法が中心的で、多くの労働者は研修に参加はしていても全く受け身的で、嫌々来ているのが明らかでした。

 産業医大で私は最初に積極的傾聴法の研修指導の研究に取り組みましたが、この場合も多くの機関や組織、企業で専門家主導の似たような研修が行われていました。そこで、私たちが行う傾聴指導ではこのような点を少しでも改善しようと、新たに発見的体験学習法を開発しました。この方法は、参加者が自ら試行錯誤を通して、自分たちで傾聴の仕方を発見するものです。その結果、はっきりしたのは、一人ひとりが大きな可能性を持っているということでした。そこで、このような考え方をできる限り幅広く応用するように努力してきました。この場合に最も重要なことは、一人ひとりの可能性を引き出すのは押しつけの教育や指導ではできないということです。

 徐々にではありますが、職場のメンタルヘルスにおいてもこのような点への気づきが出てきているようですし、その結果、取り組み方の変化も見え始めているようです。しかし本質的には、依然として専門家が上の立場から指導する、という状況が続いているのではないでしょうか。医者がこれらの活動の中心にいる限り、この流れを変えることは難しいように感じています。何故なら、大部分の医者は病気の専門家であり、健康の専門家ではありません。極論すると、「病気ではない」という視点から健康を見る傾向が強く、健康の持つ可能性のごく一部しか見ていないように思われます。従って、医者(及びその見方に強く依存している者)が行う健康指導は、人間一人ひとりの可能性を拡大することは困難ではないかと感じています。

 このような現状にヘルスコーチ・メンタルコーチの活動は大きな変化を引き起こすのではないかと期待しています。健康指導の場面で健康に関する知識をいくら伝えても、本人が日常生活の中で行動を起こさない限り変化は起こりません。(医学的な発想に基づく)脅しによる指導は、一時的な効果しかありません。本人が自ら行動を起こし、それを持続するようにもっていく、つまりやる気を引き出すことが重要です。

 そのような技術については、医者よりもコーチの方がはるかに豊富な方法論を持っています。ちなみに、私が中心的に用いているソリューション・フォーカスト・セラピーもコーチングとよく似たやり方をします。

 ヘルスコーチ・ジャパンの活動が幅広く理解され、有能なコーチが多く育ち、多くの労働者に対して楽しい健康指導が行われる時代が来るように期待しています。


【三島先生の略歴】

福岡県八幡市(現、北九州市八幡東区)に生まれる。
昭和50年、京都大学医学部卒業。同大学病院内科にて研修。
昭和51年、九州大学医学部心療内科に入局。池見酉次郎先生と出会う。昭和58年より助手。
平成5年より、産業医科大学産業生態科学研究所精神保健教室にて、講師として職場のメンタルヘルスやストレス対策に取り組み、平成12年助教授。コーチングも学ぶ。
平成18年4月より、医療法人(社)聖恵会 池見記念心療内科クリニック院長

クライエントの可能性を強く信じるソリューション・フォーカスト・セラピー(以前は解決志向アプローチと呼ばれていた心理療法)を中心とした心理療法に、集団療法、コーチング的要素を導入して総合的な視点から心身医学治療を行っています。なお、産業医科大学においては積極的傾聴法の指導に特に力を入れていましたが、研修参加者の可能性を信じて指導する発見的体験学習法を開発しています。



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